某サイトの買物画像の中に、わかつきめぐみの新刊を発見!
嬉しかったので、そのうち書くつもりだったわかつきネタをやっちまおう。
わかつきめぐみは、デビュー作(でいいのか?)の「ドッグス・ウィーク」(80年)や続く「ぱすてるとーん通信」(81~87年)の初期辺りでは、絵柄とか設定とか、おそらく坂田靖子の影響下にあった。活躍の場は、白泉社系の少女漫画誌。
で、徐々にオリジナリティを獲得していった彼女のターニング・ポイントと位置づけされるべき作品が、短編「トライアングル・プレイス」(84年)だ。40ページの読み切り。
内容:
研究室の事故で妻の真希を亡くした隆行は、淋しさを紛らす為に真希の作ったコンピュータ・プログラム「みゆ」を起動させる。みゆは女性の姿をしたホログラムで、真希の友達として設計され、そのように行動する。
隆行はプログラムに手を加えてみゆの姿を真希に変更するが、みゆ=真希は、隆行のプログラムにない行動パターンをとるようになり‥‥。
隆行と真希の友人、弓弦と久美子と共に迎えるラストは、ハッピーエンドとは言わないものの、悲しみを克服した温かな結末となっている。
細かい点に突っ込ませてもらうと、コミック表紙の折り返しの作品解説には、「コンピューターが意志を持ち始めた」とあり、作中では一貫して「コンピュータ」って表記されてるのね。「コンピューター」と「コンピュータ」。
私見ながら、「コンピューター」からはバビルの塔のコンピューターのような、ピカピカ光ってテープを吐き出すレトロなイメージがあって、それが「コンピュータ」だとOSとかネットとか、現代的なスタイルを想像する。
おそらくは、折り返しの作品解説は編集部が作ったものだろう。編集部には「コンピュータ」に対する拘りがなかったから、「コンピューター」と記した。でも、わかつきには何らかの拘りがあって、「コンピュータ」とした。コンピューターよりコンピュータの方がエライ、ということじゃなくて、そこに拘る姿勢を評価したい、ということ。
ついでに言うと、村上龍の失敗作『超伝導ナイトクラブ』(91年)では「コンピューター」、傑作『5分後の世界』(94年)では「コンピュータ」となっていて、この間に村上の中でコンピュータに対する何らかの意識変化があったと推測される。
あるミステリ評論家(名前失念)は、「ミステリー」と書くと超常現象まで含むことになってしまうので推理モノに対しては「ミステリ」と表記したい、というようなことを書いていた。
さて。
少女漫画特有の1/4スペースでわかつきは、「「トライアングル・プレイス」の雰囲気が梶尾真治作品に似ている」という指摘を受けたと書いている。
その例として、いずれも短編の「美亜へ贈る真珠」と「詩帆が去る夏」を挙げているので、そちらを紹介しよう。
「美亜へ贈る真珠」(71年)は梶尾真治のデビュー作。
機内の時間進行速度を機外の1/85,000にする航時機に乗った恋人、アキの元に通う美亜。美亜は、アキが本当に自分を愛していたのかどうかを疑うが、それを確かめる術はない。
月日は流れ、美亜は年老い、ただ航時機の中のアキだけは歳をとらず‥‥。
古典的なSFガジェット「スローガラス」を応用した、哀しくも美しい1篇。クライマックスの盛り上がりと最後の捻りが秀逸。
「詩帆が去る夏」(78年)。
恋人、詩帆の過去の過失を許すことの出来なかった男は、結局、詩帆を死なせてしまう。
後悔した男は勤め先のクローン研究所で密かに詩帆の卵細胞を培養。詩帆との娘、裕帆として、穢れなき理想の女性として育てる。
かつての詩帆そっくりに成長した裕帆に対し、男はついにある決意をする‥‥。
男が詩帆との思い出を語るモノローグ部分が、映画のモノクローム画像を思わせる雰囲気で、好き。
↑の解説だけ読むとエロ漫画やエロゲによくあるシチュエーションに思われるかも知れないが、男の悔恨と純愛が切々と綴られる、至って真面目な作品。
「トライアングル・プレイス」「美亜へ贈る真珠」「詩帆が去る夏」の3篇に共通するのは、単純にSF作品であるというだけではなく、そのSFガジェットの使い方、作品内での位置によるのではないか。
いずれの作品も、メインは物語であり、SF設定ではない。物語の中の小道具として、SF要素が使用される。科学的な裏付けは明確ではない。梶尾作品では特に、そういった説明を削ぎ落としていって、必要最小限の骨格で物語を成立させる危うさが魅力にもなっている。また、わかつきめぐみが「トライアングル・プレイス」のタイトル・ページに「SF」という文字を入れないよう求めたというのも、物語を読んで欲しい、と願ったからではないか。
3篇とも「柔らかいSF」「曖昧なSF」とも言うべき手触りで(ダリの絵のような、なんていうと却って分かりづらいか)、少女漫画だからこそ表現できたSF世界であり、少女漫画の手法で書いたSFだ。表と裏のような関係の、両者の作品。
ワンダーフェスティバルではディーラー、じゃんぼたにしが、わかつきめぐみ作品の動物キャラを立体化して出品している。嬉しいなあ。
確認したところ、HPはなく、時間があったら作るとのこと。ただ、あの返事の様子からすると余り乗り気じゃなかったような。

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